2024年12月26日
プロジェクト紹介
いつも、真ん中に人。安全・安心・快適を提供する「Human Building」
東京建物グループは、展開するビル事業において、10年以上前から「Human Building」というインナーブランディングを推進してきました。ビル事業に関わる全スタッフが一丸となって、建物・設備などのハード面だけではなくソフトサービスの質向上に取り組み、お客様への高い価値提供を目指しています。その10年を超える取り組みについて紹介します。
フラッグシップビルの相次ぐ開業。直面した課題
2010年代に入り、東京建物グループのビル事業は大きな転換期を迎えていました。
中野セントラルパーク(2012年竣工)、東京スクエアガーデン(2013年竣工)、大手町タワー(2014年竣工)と、グループのフラッグシップとなるプロジェクトの開業が相次ぎ、様々な知見を必要とする大規模複合ビルの円滑な運営管理とそれを支える現場力の向上が急務となっていました。
最新のビルが最新の性能を備えていることはもはや当然のことであり、ハード面での差別化には限界があります。そのような状況の中で、ソフトサービスを含めお客様にどのように新たな価値を提供し、高い満足度を実現していくか。それが大きな課題でした。
課題はもうひとつありました。ビル一棟の運営には、設備管理・警備・清掃・営業など様々な分野の専門スタッフが関わりますが、各分野の業務が高度化・複雑化していくにつれ、現場に縦割りの弊害が見られるようになっていたのです。折しも、グループ各社が業容を拡大し、役職員も増加している時期であり、グループが一体となってシナジーを生み出していくことも重要な課題でした。
こうした課題意識のもと、グループを横断した議論が始まりました——。
お客様に提供したい価値は「安全・安心・快適」
2012年、グループ合同で、コンセプトディスカッションを開催しました。テーマは「お客様に提供したい価値とは?」です。
ハード面での差別化に限界がある中で、ソフトサービスを通じて何をお客様に提供していきたいのか、どのようにして東京建物グループらしさを追求していくべきなのか。まず、グループのビル事業がお客様にどういった価値を提供しようとしているのかを明確化しました。現場の全スタッフが、ひとつの価値観のもとに行動できるようにしていこうという狙いです。そして再認識したのが、グループとしてお客様に提供したい価値は、「安全・安心・快適」であるということでした。
2013年には、ブランドワークショップを開催。お客様に「安全・安心・快適」を提供するために何ができるのかを突き詰めるとともに、グループの一体感を高める合言葉として次の言葉が制定されました。
「HUMAN BUILDING」
いつも、真ん中に人。
オフィスビルは、はたらく人と、ささえる人で、できている。
こうして、東京建物グループのビル事業におけるインナーブランディングとして「Human Building」が始動しました。積極的に外部に発信していくものではなく、あくまでグループ内の共通理念として、迷ったときに立ち戻る原点として、定められたものです。
トラブル発生から30分以内に応急対応、3時間以内にお客様へ報告、3日以内に問題解決あるいは改善提案を行う「3CS(サンクス)活動」といった安全・安心を提供するための取り組みのほか、お客様への満足度調査の結果をもとに現状を見直す活動が様々な現場で立ち上がり、快適さを提供するための取り組みも拡大していきました。
“ありたい姿”を実現する「5つのアクション」
「Human Building」の取り組みが一定程度浸透した2016年、グループ各社のスタッフが再度集まり、取り組みを深化させるためのワークショップを開催しました。 議論を重ね、改めてグループとして目指す“ありたい姿”を「私たち、そしてお客様が『私のビル』と実感できるビル」と定義しました。そして、その“ありたい姿”を実現するための行動指針「5つのアクション」をまとめました。
【5つのアクション】
- ビルの中の「すべての出来事」に興味を持とう。
- 「もし自分がお客さまだったら」と想像しよう。
- お客さまと「対話する機会」を大切にしよう。
- 組織の枠を超えて「1つのチーム」になろう。
- 今日の学びと経験を「みんなの力」にしよう。
一見、当たり前な内容に感じられますが、これらのアクションを一人ひとりが再認識し日常から徹底することこそが、お客様に価値を提供するための近道であることをグループのビル事業に関わる全スタッフに発信していきました。
大会で好事例を共有。各現場の取り組みをみんなの力に
「Human Building」の取り組みとして注力しているのが、例年開催している『Human Building大会』と表彰制度です。グループのビル事業に関わる大勢の現場スタッフが一堂に会し、各現場の好事例を表彰して内容を共有します。優れた取り組みの水平展開や現場スタッフのモチベーション向上を目的に、2013年のインナーブランディング開始時より継続しています。表彰事例は関係者への取材をもとに制作した映像にて紹介し、現場担当者の想いや熱を伝えています。
表彰事例の中から、「Human Building」の理念を象徴する事例を2つ紹介します。
一つ目は、新宿センタービルの事例です。竣工から数十年が経ち、決して最新の設備を備えたビルとは言えませんが、お客様への満足度調査においては常に上位にランクインしています。
その高い満足度を支えているのは、各役割を担う現場スタッフの日々の業務の積み重ねと、縦割りではなくそれぞれがビルで起こる様々な事象を自分事として捉えながら連携するチーム体制です。新宿センタービルは大規模ビルがゆえに多種多様なスタッフが関わりますが、「Human Building」の想いのもとスタッフが一丸となって日々の当たり前を徹底し、信頼関係を構築しています。
表彰された事例においても、信頼関係にもとづく連携が発揮されました。ビルに隣接し、多くの方々が往来し混雑する新宿駅西口地下通路で急病人が発生。ビル警備隊を中心に各スタッフが連携し人流を整理し、一般の方の協力も得ながらAEDなどを用いて心肺蘇生にあたりました。急病人は一命をとりとめ、本件の対応は消防総監感謝状の授与を受けました。日々の訓練や連携が緊急時に発揮された事例となりました。
二つ目は、中野セントラルパークの事例です。武蔵野台地の高台かつ強固な地盤に立地し様々な防災設備を備える本物件では、入居企業様と協働した消防訓練実施にも注力しています。しかしコロナ禍においては、消防署より消防訓練の縮小を要請されるなど、従来数千人が参加していた大規模な訓練を実施できない状況にありました。このままではビルとしての防災意識の維持が難しくなると考えた現場スタッフが協議を重ね辿り着いたのが、映像配信型の「バーチャル防災訓練」です。消防設備を実際に使用している様子のほか、消火活動や避難誘導の現場の様子を臨場感ある映像として配信したところ、多くのお客様から「何度も繰り返し観られて役に立つ」「通常の訓練よりも充実していると感じる」などたくさんの反響をいただきました。現状に甘んじるのではなく、普段からお客様のために考え行動しているからこそ、逆風の中でも高い満足度を実現できた事例となりました。
これから先も、お客様のためのビル運営を目指して
インナーブランディング「Human Building」の開始から10年以上が経ちました。近年は研修制度などもスタートし、取り組みを充実させています。毎年実施しているお客様への満足度調査の結果を見ても、取り組みの開始以降、満足度の向上が確認できており、「Human Building」が着実に効果を生んでいることがわかります。また大きな成果として、各ビルの現場スタッフ一人ひとりがお客様の立場に立って考え続け、チームとして連携し、多くの取り組みを通じてお客様に満足していただく成功体験を重ねてきたことが、東京建物グループのビル事業にとって大きな財産となっています。
しかし、私たちが提供する価値「安全・安心・快適」にゴールはありません。10年先、20年先を見据えながら、どんなに技術が発展しても「いつも、真ん中に人。」の想いで、ビルの管理・運営に向き合っていきます。