2019年06月01日
サステナビリティレポート 特集
八重洲・日本橋・京橋エリアにおける持続可能なまちづくり
世界最大のメガシティにして日本の首都・東京。
そのなかでも全国の鉄道網の中心である東京駅を擁する八重洲・日本橋・京橋エリアは東京の中心であり、東京建物にとっては、明治29年から現在に至るまで本社を構える、縁の深いエリアです。
東京建物は、サステナブルな社会の実現を目指す次世代デベロッパーとして、この八重洲・日本橋・京橋エリアで持続可能なまちづくりを進めています。
ビジネスエリアとしての持続可能性を高めるイノベーション・エコシステム
持続可能なまちづくりを進めるうえで東京建物が重点的に取り組んでいるテーマの一つが、イノベーション・エコシステムづくりです。
イノベーション・エコシステムとは、スタートアップや大企業、投資家、研究機関など、産学官のさまざまなプレイヤーの集積と連携が、イノベーションにつながる新たな産業の育成や経済成長の好循環を生み出すようなビジネス環境を、自然環境の生態系になぞらえて表現した言葉です。
八重洲・日本橋・京橋エリアは世界を代表するビジネスの中心地ですが、その持続的な発展には、新たな産業を生み出すイノベーションとこれを支えるエコシステムの存在が欠かせません。
江戸時代に始まるイノベーション・エコシステムの基礎形成
イノベーション・エコシステムはさまざまなプレイヤーの集積と連携により形成されることから、このプレイヤーを集めるための交通基盤の整備は、最も重要な基礎的要件と言えます。
江戸開府にともない、徳川幕府は陸上幹線として日本橋を基点とする五街道を整備しました。これにより、地方からの人や物資、文化の流入が大いに促進され、まちは新たな産業や文化を生む場へと発展しました。
江戸城下には日本全国からモノづくり職人などが集まり、江戸城や武家屋敷で使用する畳や襖、武具などが生産されました。また、襖には絵が描かれることから、日本画史における最大派閥「狩野派」がその拠点を設けたほか、歌川広重など多くの浮世絵画家も居住し、芸術文化も栄えました。そして、これらの産業を担う地方からの単身上京者の食を満たすために、手軽なファストフードとして屋台の蕎麦や寿司も考案され、江戸の食文化として発展しました。
イノベーションを支える交通基盤
交通基盤の整備は、新たな産業や文化の創出・育成、すなわちイノベーションの促進に大きな影響を及ぼします。
八重洲・日本橋・京橋エリアでは江戸時代より現在に至るまで、東京駅を中心とした全国鉄道網のハブ機能、長距離バス網のターミナル、地下鉄網、高速道路網など、他都市と比べて圧倒的な量の交通基盤が整備し続けられてきました。そして今後も、BRT網や新たな地下鉄線の整備など、さらなる充実が予定されています。
交通基盤の整備には、長大な時間と多大な社会資本の投入が必要となるため、整備される地域は限定的であり、長期にわたって固定化されます。八重洲・日本橋・京橋エリアは、イノベーションの基礎的要件である交通基盤がすでに整っているという、大きな強みを有しているのです。
交通基盤がもたらしたヒト・モノ・カネの流通は、企業集積による経済効果をもたらし、八重洲・日本橋・京橋エリアを国内随一の都市型経済の集積地へと変化させました。この企業集積は他の地区の追随を許さない圧倒的な規模であり、優れた人材の数や集合知の量は、他地区では得られない貴重なイノベーションの源泉でもあります。
クリエイティブ・クラスを惹きつける豊かな文化性
八重洲・日本橋・京橋エリアのもう一つの強みが、豊かな文化性です。
都市経済学者のリチャード・フロリダが『クリエイティブ資本論』の中で指摘するように、イノベーションを牽引するクリエイティブ・クラスの人材には、その土地に根ざした文化を好む傾向があります。つまり、豊かな独自の文化性を有するエリアほど、クリエイティブ・クラスを集積させることができると言えるのです。
八重洲・日本橋・京橋エリアは、江戸時代から絵画等の芸術文化が育まれ、現在も美術館をはじめ国内有数の古美術店・ギャラリーが集積するアート地区です。そして同時に、日常の豊かさをもたらす食文化も兼ね備えています。寿司、蕎麦、鰻など独自の日本食文化が発展し、今でもその系譜を江戸時代に求めることのできる店が数多くあります。ビジネス地区としての発展がさらなる飲食業の集積を促し、多様で質の高い飲食店がビジネスミーティングやプライベートな楽しみの場として活用されています。食品の製造から卸まで、さまざまな食関連産業の集積により、文化と経済が一体となったエコシステムの基礎が形成されています。
イノベーション・エコシステムの発展に向けて
八重洲・日本橋・京橋エリアは充実した交通基盤、大規模な企業集積、豊かな文化性という、イノベーション・エコシステムに欠かせない重要な要素を備えており、そのいずれも相当な時間をかけなければ形成できないものであることから、他地域に対する大きな競争優位性となっています。この強固な基礎のうえに新たな要素を加えることで、イノベーション・エコシステムをさらに発展させる取組みを始めています。
スタートアップの呼び込みと、社会課題をテーマとしたオープンイノベーションの促進
産業の活性化には、新たなアイデアの開発と提供が欠かせません。その役割を社会のなかで担っているのが、スタートアップです。彼らの柔軟でスピーディーな活動を既存産業に掛け合わせた時、これまでにないイノベーションの創出が期待できます。
東京建物は2018年より、創業期のスタートアップの集積を促す拠点としてスタートアップスタジオ「xBridge-Tokyo」の運営を開始しました。これまでに20社以上のスタートアップが本拠地として利用し、各々のビジネスの成長に役立ててきました。
また、東京建物ではオープンイノベーションの拠点となる施設の整備と運営も行っています。「City Lab TOKYO」では、まちづくりにかかわるさまざまなプレイヤーの連携を促す場の提供とプログラムの運営を通じて、脱炭素社会の実現などに取り組んでいます。
「TOKYO FOOD LAB」では、八重洲・日本橋・京橋エリアの特色である食産業の集積を活かしながら国内外から新たなプレイヤーも呼び込み、国際的な社会課題である食料難の解決など、食のイノベーションに取り組んでいます。キッチンスタジオ「SUIBA」では、食を通じたにぎわいやコミュニケーションを促進するとともに、食にかかわるプレイヤーの新たな挑戦を支援しています。
「TOKYO IDEA EXCHANGE」では、3Dプリンターなどの工作機器を備えたウェットラボを設け、新たなクリエーターを呼び込んでいます。それぞれ地域的な課題から世界に共通する課題までさまざまな社会課題の解決をテーマとして設定しており、特色あるネットワークが形成されつつあります。
これらの取組みは東京都にも評価され、2019年度のイノベーション・エコシステム形成促進支援事業「認定地域別協議会」(PR支援型)に認定されました。
イノベーション・エコシステムの成長の仕組み
米国のブルッキングス研究所は、イノベーション・エコシステムの形成には「経済的資産」としてのさまざまなプレイヤー、「物理的資産」としてのインフラやオフィス、飲食店、オープンイノベーション拠点等の場、「ネットワーク資産」としてのさまざまなネットワーキングプログラムという3つの要素が不可欠であると整理しています。
この3つの要素について八重洲・日本橋・京橋エリアの状況を当てはめてみると、経済的資産としては、既存の企業集積にスタートアップの集積を付加することで、その資産価値の増大が期待されます。
物理的資産としては、圧倒的な優位性を有する交通基盤のうえにオフィスや店舗の大規模な集積がすでに存在しています。ここに新たなオープンイノベーション拠点が加わり、さらに今後予定されている大規模再開発事業が行われることで、エリア内の資産は大幅に拡大します。ネットワーク資産も、各オープンイノベーション拠点において運営されているプログラムを契機として、強化されていくと予想されます。
このようにイノベーション・エコシステムがまちのなかで成長し始めると、イノベーションを求める大企業等、さまざまなプレイヤーが連鎖的に集まる自律的で持続的な発展サイクルをつくり出すことができます。東京建物が進めている「東京駅前八重洲一丁目東地区第一種市街地再開発事業」や「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」のような大規模再開発事業にとっても望ましい状態であり、また、これらの施設は新たなプレイヤーの活躍する舞台としても貢献できます。
東京建物は、イノベーション・エコシステムづくりを通じて、まちと自社事業の持続的発展を同時に実現することを目指しています。
イノベーション・エコシステムの3つの資産
Economic Assets(経済的資産)
イノベーションに富んだ環境を推進、育成、サポートする企業、機関、組織。
Physical Assets(物理的資産)
新しい、より高いレベルの接続性、コラボレーション、イノベーションを刺激するように設計および編成された、公共および個人所有のスペース。
Networking Assets(ネットワーキング資産)
アイデアの進歩を生み出し、研ぎ澄まし、加速する可能性のある個人、企業、機関などの関係者の関係。
参考:米国「ブルッキングス研究所」
再開発後に構築される新しいイノベーション・エコシステム
担当者コメント
東京建物株式会社 まちづくり推進部長 久間田 尚紀
八重洲・日本橋・京橋エリアは、日本の経済を牽引するビジネスの中心地でありながらも、老舗飲食店の店主等をはじめとする人々の「顔」が見えるとても人間味のあるまちです。多くの企業が永きにわたってこのまちで事業を続けているのは、その成長を支える交通利便性や企業集積の優位性はもちろんのことながら、そこで働く人々の心が安らぐ居心地の良さもあるからなのかもしれません。私たち東京建物は、その背景にある地域固有の文化を大切にしながら、ビジネスの成長を促すイノベーション・エコシステムの形成も図ることで、世界に伍する魅力的なまちづくりを進めます。
持続可能なまちを支える防災対応と環境負荷低減の取組み
防災対応力強化
持続可能なまちづくりを考えるうえで、防災対応も欠かすことのできない要素です。
気候変動による異常気象や地震などによる災害への対策は、まちづくりの重要な要素であり、立て続く大規模災害を契機にますます注目が高まっている社会課題でもあります。大規模災害はオフィスビルを損壊するにとどまらず、そこに住み働く人々の命や生活を脅かし、地域全体に被害を及ぼします。東京建物では、防災を地域の単位で捉える考え方に基づき、近隣の企業や周辺住民、町内会等の地元組織とともに防災対応力の強化を図ることで、より安全・安心なまちづくりに取り組んでいます。
大企業のオフィスが集まる都市部では、災害発生時の帰宅困難者も大きな課題となります。また、災害発生時には送電網や電力供給施設も被害を受けることから、大規模停電等が発生する恐れもあります。東京建物が建設する大規模ビルでは、帰宅困難者の受け入れを想定した物資の備蓄や災害時のマニュアルを整備し、今後の大規模再開発事業を含め、コージェネレーションシステム※の導入や地域冷暖房施設のネットワーク化によるエリア全体のエネルギーの効率化と環境負荷の低減、非常用発電設備による業務継続機能の強化等を図っています。
- 発電と同時に発生した排熱を冷暖房等に有効利用する省エネルギーシステム
環境負荷低減
東京建物が手掛けるプロジェクトでは、環境方針に基づいてさまざまな環境対策を行っています。
銀座線京橋駅に直結する大規模複合ビル「東京スクエアガーデン」では、脱炭素社会の構築など、環境に配慮したまちづくりを目指し、ビル内に「京橋環境ステーション」を設置・運営しています。ここでは、地域の中小ビルオーナー等に対する省エネ対策の相談や、区民が環境問題を学び、活動する機会と場を提供するほか、当ビルの多様な環境技術の取組みも紹介しています。
2020年5月より東京建物の本社として機能する東京建物八重洲ビルでも、効率的なエネルギー運用や緑化など、環境負荷低減に努めています。
これらの取組みを通じて、国際都市間競争や生産年齢人口の減少、ワークスタイル・ライフスタイルの多様化などに代表される社会の大きな変化のなかにおいても、世界の人々や企業を惹きつけることのできる、魅力的で持続可能なまちを実現することを目指します。
TOPICS「アイカサ」 東京駅周辺エリアで傘のシェアリングサービス
東京建物では、株式会社Nature Innovation Groupおよび東京ステーションシティ運営協議会など東京駅前エリアの団体・企業と連携して、2019年12月より日本初の傘のシェアリングサービス「アイカサ」を開始しました。全国700ケ所以上ある「アイカサスポット」で専用アプリを使って傘のQRコードを読み取るだけで、古地図を用いたデザインのお洒落な傘を借りることができます。
エリアで働く人々や観光客へのおもてなしを提供するとともに、ビニール傘削減を通じたプラスチックごみ問題解決を目的としています。
- 本ページに記載の所属や役職及び掲載内容は取材当時のものです。