トップコミットメント Message from the President and CEO

サステナブルな
まちづくりの実現に向け、
誠実に、真摯に
取り組みを進める

代表取締役 社長執行役員

野村 均

昨年は、新型コロナウイルス感染症の影響が残るなか、ロシア・ウクライナ情勢の影響に伴うエネルギー危機など、世界経済の混迷が続く1年となりました。様々なリスクが顕在化したことで、気候変動やレジリエンスなどサステナビリティ分野への注目はますます高まっていると感じています。さらに、コロナ禍で人々の価値観も変化しました。ライフスタイルが多様化し、住まいへのニーズの変化を感じる一方で、多様な働き方が選択できるようになったからこそ、オフィスでのリアルなコミュニケーションは改めて重視されています。このような時代において、不動産業界が果たすべき役割は大きく、当社グループもより一層取り組みを加速していく必要があると、身を引き締めているところです。

温故知新の精神で取り組む「サステナブルなまちづくり」

当社のまちづくりの代表例ともいえるのが、当社の旧本社ビル跡地を含む、東京駅前八重洲エリアで進行中の大規模再開発プロジェクト「八重洲プロジェクト」です。当社が、1896年の創業以来本社を構える、八重洲・日本橋・京橋(八日京)は東京駅の最も近くに位置しながら、城下町としての歴史も古く、昔からの習慣や文化を大切にしてきたまちです。当社もこのまちの住民として、お祭りをはじめとする伝統文化の継承や保存、まちの美化活動などを通じ、地域の皆様との交流を大切にしてきました。再開発事業によって単に建物や施設を新しくするだけではなく、建物完成後が本格的なまちづくりであるという意識を持ち、当社にとって地元でもあるこのエリアで地域の皆様のお力をお借りしながら、私たちだけでは実現できないことを一緒に成し遂げていきたいと考えています。

また、当社はマテリアリティの一つに「国際都市東京の競争力強化」を挙げています。日本の発展のためには、まず東京のさらなる競争力強化が欠かせません。当社は、東京の様々なエリアで複数の大規模再開発プロジェクトを推進しており、再開発プロジェクトにおいては各地域の伝統文化を継承しつつ、新しい時代の要請にも応える取り組みを進めています。さらに、近年新しい働き方とともに注目されているウェルビーイングにも着目し、今年新たにWell-being Lab.を発足させました。ウェルビーイングは、モチベーションや生産性の向上にも影響するといわれています。実験や調査を通じて人々のウェルビーイング向上につながる要素を特定し、今後の再開発プロジェクトにおいて、これらの結果に基づく各種サービスを開発・提供し、ワーカーのウェルビーイングを向上させるオフィスの実現を目指します。当社の今後のまちづくりにも、ぜひご期待ください。

粘り強く誠意をもって接するのが「東京建物らしさ」

日本の高度成長を支えた集合住宅は、老朽化による耐震性不足や防犯面の不安、エレベーターの不設置など深刻な問題を抱えています。当社では、これらの課題解決のためにマテリアリティの一つに「不動産ストックの再生・活用」を特定し、建替え案件を多数手掛けています。2023年6月には、Brillia City 石神井公園 ATLASが竣工予定であり、2025年にかけても順次竣工を迎えます。こうした建替え事業や大規模再開発の推進においては、当然関係者の数も多く、合意形成は容易ではありません。ステークホルダーの皆様が大切にしてきた価値観を、担当者一人ひとりが理解しながら、誠意をもって粘り強く推進していくことが肝要です。心から信用していただき安心感をもってお任せいただけるか、我々と一緒にやりたいと思っていただけるかは、お客様や関係者との直接の対話や日々の何気ないやりとりなどに起因します。時間をかけた地道な積み重ねが、結果として事業の成功につながり、そのほかの案件獲得にも結びつく、大事な要素であると考えています。

まちづくりを支える一人ひとりの人間力

企業としての生命線は案件をいかに継続的に確保できるかにかかっているといっても過言ではありません。その基盤となるのはやはり情報力、もっと細かくいえば、情報を獲得する力ではないでしょうか。若い頃、先輩から「情報とは情けに報いることだ」と教わったことがあります。なかなか成果につながらなくとも、諦めずに足を運び続けていれば、いつかは相手にも伝わり「これまでの努力に報いてやろう」と思っていただける。そうして与えてもらえるのが「情報」なのだと。情報力とは一人ひとりの人間力に由来し、人間力を持った従業員が集まることで、会社の力となり成果につながるのだ、ということはいまだに確信しています。また、その人間力こそが当社にとっての一番の強みであると思っています。

人間力を高めるため、従業員に心がけてほしいと常々伝えている言葉が「凡事徹底」です。信頼関係を構築・維持できるかどうかは、案外些細なことにかかっています。私自身、信頼は一度傷ついてしまったら、どれほど時間をかけても元には戻らないと肝に銘じています。当たり前のことをきちんとやることが、当社の企業理念である「信頼を未来へ」を実現することにもつながっていくと信じています。このような考え方は、当社のDNAや社風として長年受け継がれてきましたが、今後も継承しながら強化していくことが望ましいと思っています。近年は、様々な個性や価値観、バックグラウンドを有するキャリア人材の採用も増えています。多様性を尊重しながら、互いに信頼して仕事をするためには、根幹部分での共通認識が重要なのだと思いますし、コミュニケーションを活性化することで、個人の幸福度も、組織としての結束力も高まっていくと考えています。当社でも、昨年実施した従業員エンゲージメントサーベイにおいて、従業員同士のコミュニケーション不足による人間関係の希薄化に課題があることがわかり、社内の休憩スペースに会話のきっかけとなるちょっとしたおやつを用意したり、終業後に従業員同士で気軽にコミュニケーションが図れるよう無料のアルコール飲料を提供するなどの取り組みを始めました。私自身もそこに加わり、日々コミュニケーションを深めています。

気候変動へのさらなる野心的な挑戦

2021年6月、当社はマテリアリティの一つである「脱炭素社会の推進」に関する中長期目標を掲げました。目標設定以降、各事業本部において取り組みを強化し、着実に進めた結果、今年2月にはこれまでの目標の一部を強化・前倒ししました。なかでもビル事業における保有不動産で消費する電力については、これまでの目標を20年早め、2030年度までに100%再エネ化を目指します。今回の目標達成時期の前倒しに大きく貢献しているものの一つが、物流施設T-LOGIにおける取り組みです。T-LOGIシリーズでは、原則としてすべての施設で『ZEB』※の取得を目指し開発しており、各物流施設の屋上に太陽光発電パネルを設置して発電し、発電した電力は当該施設で自家消費しています。さらに、余剰電力は当社のほかの施設で使用し、再エネ電力を無駄なく活用しています。このような自己託送の仕組みは、先駆的な取り組みであり、着実に実績を積み上げてきました。

脱炭素に関する中長期目標について議論を始めた当初、私自身は、達成が極めて難しい目標を企業として掲げることに葛藤がありましたが、現在は、野心的な高い目標を立てることで全員が必死になって取り組む、そのことに意味があるのだと得心しています。従業員もまた、取り組むべきことが明確化されて意識が変わったのでしょう。目標を掲げて以降は一人ひとりが自分事として前向きになり、今回の目標の一部強化および達成時期の前倒しに至ったことは大変喜ばしいことです。新たな目標とともに温室効果ガス排出量削減ロードマップも策定し、今後はこれらに沿ってグループ一丸となって知恵を絞り、様々な分野にチャレンジしていきたいと思います。

※快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建築物「ZEB(Net Zero Energy Building)」において、4段階のうち、省エネ・創エネの割合が最も高い水準である「省エネ+創エネで100%以上削減」を満たすもの。

人権・ガバナンス課題への対応を通じた価値創出基盤の強化

人権への取り組みでは、国連グローバル・コンパクトといったイニシアチブへの参加や様々な勉強会を通じて、情報を収集し支援を得ながら人権デュー・デリジェンスへの取り組みを進めています。昨年4月には7つの優先課題を特定し、海外での新規事業参画時にはアセスメントをより一層拡充すべく、取り組みの検討や継続的な協議を行っています。人権の尊重は事業活動において大変重要な基盤であるため、引き続き注意深く対応していきます。また、サプライチェーンについては2021年に策定した「サステナブル調達基準」について、周知・遵守の促進のために、お取引先様へアンケートを配布し、取り組み状況の把握に努めています。

ガバナンスについては、取締役会での審議事項について、不動産事業の特性上一つの投資案件に対する金額が大きいことから、個別プロジェクトに関する議論に時間を取られがちでしたが、投資案件について執行サイドへの権限移譲をさらに進めることにより、長期ビジョンや中計、事業ポートフォリオ等の経営方針や戦略に関する中長期的な議論を拡充し、取締役会の実効性の向上を図ってきました。元々当社は、誰もが平等に忌憚なく意見が言える会社ではありますが、特に社外取締役の方々には、当社が中長期的に成長し続けるために必要な事柄について率直にご助言をいただくようお願いしています。社外取締役の方々の多様な経験に基づき、社内ではある意味慣習的になっていた事項についても新鮮な切り口でご意見をいただき、目から鱗が落ちるようなこともありました。企業経営経験者を増やすべき、DXの専門家を入れるべきといったご意見も真摯に受け止め、検討していきたいと思っています。また、事業環境の変化が激しく、不確実性の高い現代社会での企業経営においては、リスクマネジメントおよび内部統制のさらなる強化が必要と考え、昨年12月にはリスクマネジメント体制を刷新しました。対策優先リスクを特定し、適切なリスクマネジメントを行ってまいります。

これらの当社の取り組みをご評価いただき、昨年はESG銘柄として複数のインデックスに選出していただきました。今後もステークホルダーからの要請に向き合い、応え続けていくためにも、さらに取り組みを成熟させていく所存です。

まちづくりを通じて目指す全ステークホルダーにとって「いい会社」

長期ビジョン「次世代デベロッパーへ」では、私たちの事業を通じて「社会課題の解決」と「企業としての成長」をより高い次元で両立することで、すべてのステークホルダーにとっての「いい会社」を目指すと掲げました。これは、中長期的な視点で見た時に、全方位にバランスよく配慮を尽くしていくことを意味しています。ある瞬間を捉えて、すべてのステークホルダーにとって最善の状態にあるということは、残念ながら難しいでしょう。しかし常に企業価値を向上していけば、将来的にどこかで、ご評価いただけるような存在になれると信じています。そしてそれはある意味、すべてのステークホルダーにとって「いい会社」になっているといえるのではないでしょうか。そのような意味でも、中長期的に成長し続けていきたいですし、そのような力がある会社であるというご評価をいただける存在になっていきたいと思っています。

当社グループは今後も事業活動を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。今後とも当社グループへのご理解と一層のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2023年6月

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