ZEH改修住戸の快適性を科学的に検証
築20年の賃貸マンションで実証実験を実施
ZEH住宅の普及、理解促進に向けた産学連携プロジェクト
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東京建物株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役 社長執行役員 小澤 克人、以下「東京建物」)、YKK AP株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 魚津 彰、以下「YKK AP」)、慶應義塾大学(所在地:東京都港区、塾長 伊藤 公平)は、ZEH※1基準への改修が住む人の快適性に与える影響を検証することを目的とした実証実験(以下「本実証」)を実施しました。本実証は、東京建物が開発し、保有する築20年の大規模賃貸マンション「Brillia ist東雲キャナルコート」(東京都江東区)内の住戸に被験者が宿泊し、温湿度やバイタルデータを比較することでZEHが快適性・健康性に与える影響を可視化するものです。


住宅のZEH化は、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、経済産業省・国土交通省・環境省が連携して、住宅の省エネ・省CO2化に取り組む中の重要施策のひとつであり、省エネルギーの観点だけでなく、住まいの快適性を高め、ヒートショック等のリスク低減にもつながるといった健康面への効果も期待されています。
本実証では高断熱窓や断熱材を用いることによって環境性能をZEH基準※2にまで向上させた「ZEH改修住戸」と通常の改修住戸(高断熱窓や断熱材変更を伴わない改修)を用意しました。室内環境計測を行うだけでなく、被験者グループにそれぞれの住戸で一定期間生活してもらい、血圧や脈拍などのバイタルデータを比較分析することで、住宅のZEH化が住む人の快適性・健康性に与える影響を検証するものです。これらの科学的検証を実施することにより、入居者アンケートのような主観的データだけでは実現しなかったZEH住宅の身体への効果を裏付け、電気代削減に代表される経済的メリットにとどまらないZEH住宅のウェルビーイングな効果を発信することを目指します。
【本リリースのポイント】
・ 東京建物、YKK AP、慶應義塾大学は共同で、ZEH改修住戸が住む人の快適性に与える影響をバイタルデータや室内環境計測データにより客観的・科学的に検証する実証実験を実施。
・ 住宅のZEH化は、経済産業省・国土交通省・環境省における省エネ化に関する重要施策のひとつであり、本実証により、人の快適性・健康性などのウェルビーイングな効果を発信。
実証実験の実施内容
本実証は断熱性能の違いの出やすい夏季および冬季の2回実施します。夏季については下表のとおり実施しました。
※冬季については、日程調整中。
期間 | ・室内環境計測:2025年8月18日(月)~8月23日(土) ・被験者入居計測:2025年8月25日(月)~9月6日(土) |
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内容 | 環境計測データ収集や、被験者(学生)がZEH改修住戸と通常改修住戸に交互に宿泊し、そのバイタルデータなどを収集することでZEHが住む人の快適性・健康性に与える影響を検証する |
測定データ | 室内環境計測:日射量、室内の温・湿度、窓や躯体の表面温度、消費電力など 被験者入居計測:バイタルデータ・アンケート調査、作業効率の検証 |
場所 | Brillia ist東雲キャナルコート(東京都江東区東雲一丁目9-22) |
主体・役割 | 東京建物:本実証の全体主幹、実証場所の提供 YKK AP:高断熱窓改修、室内環境計測、温熱環境シミュレーション 慶應義塾大学(川久保俊理工学部准教授・伊香賀俊治名誉教授):入居者の健康・快適・作業効率の測定と分析 |
ZEH改修住戸の仕様
本実証で用いた住戸は既存住宅を改修しZEH基準に適合させたものです※3。政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向け、住宅・建築物のストック平均でZEH基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指していますが、新築住宅と比較し、既存住宅のZEH化は認知度やメリットに関する理解が進んでいないことが課題として指摘されています※4。このような背景のもと、本実証では、既存住宅のZEH改修の普及促進に向けて、ZEH化による快適性を実証し、ウェルビーイングな効果を客観的に伝えていきます。
本実証は2住戸を実施場所としており、1戸はZEH水準ではない通常改修を行い、もう1戸はZEH水準に改修しました。当該2住戸の施工内容のうち、差異のある項目は下表の通りです。
断熱改修箇所・ 各種性能値 | 通常改修住戸 | ZEH改修住戸 |
外壁・柱・梁 | 吹付け硬質ウレタンフォーム A種1 厚さ:30mm |
吹付け硬質ウレタンフォーム A種1H 厚さ:外壁・柱35mm、梁20mm |
バルコニー側開口部 | 一重窓 Uw=6.26W/(㎡・K) アルミサッシ 単板ガラス |
一重窓 Uw=2.11W/(㎡・K) アルミ樹脂複合サッシ Low-E 複層ガラス(G15)日射取得型 |
廊下側開口部 | 一重窓 Uw=6.26W/(㎡・K) アルミサッシ 単板ガラス |
二重窓 Uw=1.45W/(㎡・K) [外窓]アルミサッシ、単板ガラス [内窓]樹脂サッシ Low-E 複層ガラス(G12)日射取得型 |
各水栓 | 非節湯仕様 | 節湯仕様 |
UA値 | 0.74 W/(㎡・K)(断熱等性能等級4※5) | 0.27 W/(㎡・K)(断熱等性能等級6※5) |
BEI値 | 0.94(一次エネルギー消費量等級4※6) | 0.73(一次エネルギー消費量等級6※6) |
住戸の断熱性能を左右する開口部は、YKK APが商品提供・施工しました。特に、バルコニー側には⾼い断熱性と防露性を両⽴したアルミ樹脂複合窓『EXIMA 55』をカバー工法で施工し、廊下側の窓には既存の窓との間に空気の層を作ることができる樹脂製の高断熱内窓を設置しました。


測定データの内容

本実証では、室内環境計測および被験者入居計測の実施により各種データを取得しました。室内環境計測においては、各対象住戸において7箇所ずつ温湿度を測定し、サーモカメラによる熱画像の撮影により窓や躯体の表面温度から立体的な温度分布を予測しました。また、エアコンの稼働内容も記録し、今後、消費電力の算出・分析を行います。 被験者入居計測においては、ウェアラブル端末を用いるなどして体温・体組成・歩数・睡眠時の活動量等のバイタルデータを取得しました。また、テキストタイピングや算術課題などの模擬作業を実施し、作業効率の測定も行いました。今後、冬季は同様の各種計測に加え、窓の結露状況や血圧の変化等も測定予定となります。両季の結果を合わせて分析し、ZEH改修住戸の効果を検証します。
本実証実施にあたって
慶應義塾大学理工学部 川久保 俊 准教授よりコメント
住宅のZEH化は省エネ・脱炭素に貢献するだけでなく、居住者の快適性や生産性、健康維持にも効果がありますが、既存住宅のZEH改修に関してはまだ事例も少なく、「認知」と「体感価値」の可視化において課題が残っています。本実証実験では、ZEH改修が室内環境の改善を通して居室滞在者の快適性や生産性、健康性に与える影響を客観データによって検証します。例えば在室時の快適な温湿度の維持や在宅ワーク時の集中力の継続、夜間睡眠時の中途覚醒の減少といった効果を可視化できるのではないかと期待しています。このような住まいの価値をエビデンスとして示すことによって、既存住宅のZEH改修の普及に弾みをつけられればと考えています。
Brillia ist東雲キャナルコート物件概要

所在:東京都江東区東雲一丁目9-22
交通:東京メトロ有楽町線「豊洲」駅徒歩12分
東京メトロ有楽町線「辰巳」駅徒歩13分
りんかい線「東雲」駅徒歩13分
竣工:2005年3月
敷地面積:7,739.18㎡
延床面積:40,812.49㎡
戸数:高層棟380戸、低層棟43戸
構造・規模:高層棟鉄筋コンクリート造・地下1階地上14階建、低層棟鉄骨造・地上4階建
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ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギー等を導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支を正味でゼロとすることを目指した住宅。
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本実証で用いる「ZEH改修住戸」は「ZEH Oriented」基準(ZEH強化外皮基準を満たし、再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減)に適合。
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本実証で用いる「ZEH改修住戸」は改修後に住宅性能評価を取得せず、記載の等級は自己評価により同等性能である事を確認している。
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経済産業省『第6次エネルギー基本計画』『第7次エネルギー基本計画』
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断熱等性能等級は住宅性能評価によるもので、等級5以上がZEH基準を満たす。
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一次エネルギー消費量等級は住宅性能評価によるもので、等級6以上がZEH基準を満たす。