投資家との対話から得た教訓

当社は、2025年1月に現中期経営計画(以下、「現中計」)を発表し、その翌日、当社の株価は大きく下落しました。社長就任直後の株価下落は、資本市場と真摯に向き合う経営の在り方を改めて考えさせられることとなりました。計画の策定には社内で時間をかけ、緻密な議論を重ねてきた自負がありましたが、振り返ると、オフィス賃貸マーケットや不動産の売買マーケットなど、本格的な好況フェーズ入りが見え始めていた市場の環境変化を十分に計画に織り込み切れておらず、資本市場の期待と発表した計画にギャップがあったものと反省させられました。

この状況を踏まえ、現中計発表直後に行った社内向けの説明会では、「中計の前倒し達成を目指す」ことを全社へ強く発信し、ギアを切り替えていくことを促しました。また、資本市場に対しては、個別面談・カンファレンス・海外IRに積極的に参加し、策定当時よりも市場環境が良好に変化していること、環境変化をとらえてガイダンス以上の利益水準を目指すことを伝えるよう努めました。好調な市場環境に加えて当社の強みである機動性や変化への柔軟な対応力を如何なく発揮し、ほとんどの部門が計画を凌駕するパフォーマンスを発揮、利益等は期初ガイダンスを上回るペースで推移しました。さらに第3四半期決算において、通期業績見通しの上方修正を行ったことで市場からの評価も改善し、株価の大幅な上昇につながりました。

結果として、2025年度業績は営業収益・営業利益・事業利益・経常利益のいずれにおいても過去最高を更新しました。

社長によるIR面談・カンファレンス出席などの実績

※現 代表取締役会長

2025年度 株価指数※2025年1月6日を100として指数化

2026年度の業績ガイダンスは中計目標の一部前倒しを達成する計画としておりますが、この達成には強い自信を持っています。外部環境の変化、特に金利の上昇については引き続き注視が必要ですが、金利上昇が当社に与える影響は大きく2つあると認識しています。一つ目が資金調達に伴う支払利息の増加が業績に与える影響です。支払利息の増加によるコスト上昇は避けられませんが、当社は金利の長期固定化を進め、金利上昇リスクへの耐性強化を図っています。さらに、本年5月には日本格付研究所(JCR)による長期発行体格付がAからA+(安定的)に引き上げられたことを受け、今後の資金調達コスト増加の抑制が期待される一方、本格的なインフレーション経済の下、オフィスの賃料やホテルの宿泊料上昇による収益の増加や、収益の伸びを織り込んだ投資家向け物件の売却価格の上昇により、支払利息の増加を吸収して利益成長を実現することが可能な状況です。

二つ目は住宅ローン金利の上昇等に伴う住宅販売への影響ですが、当社が展開するBrilliaブランドの住宅は、厳選した立地で、お客様のニーズをしっかりとらえた住宅を供給しており、お客様からも高い評価を獲得し、販売は計画通りに順調に進捗しています。株式市場においては、過度に金利上昇の影響を懸念する見方もあるようですが、今期の業績への影響は軽微であり、今後の利益貢献についても大きな懸念はありません。金利上昇以外にも、地政学リスクなどビジネスにおける不確実性はより一層増してきていますが、引き続き環境変化をいち早く経営計画に織り込み、着実な利益成長を目指していきます。

株主価値最大化と総合不動産デベロッパーとしての存在意義の両立

今後の当社の経営を進めるうえでは、ROEとEPSを引き続き重要な指標として意識していきます。ROEは現中計の目標である10%を通過点と位置づけ、資産リサイクルの最適化、事業収益性の改善、財務戦略等を組み合わせることで、更なる向上を目指します。またEPSの成長については次期経営計画における水準について現在検討していますが、金利の更なる上昇を織り込んだうえで、インフレによる経済成長の取り込みを図り、賃貸収益の拡大・付加価値の向上を通じて、力強い利益成長および継続的なNAVの拡大を実現するとともに、資産回転率を高めることで効果的に利益の顕在化を促進し、創出したキャッシュによる成長投資の拡大、持続的かつ高水準な株主還元の実現を図ります。

完成まで25年以上の歳月がかかった「TOFROM YAESU」

我々のような総合不動産デベロッパーにとって、ROEやEPSにコミットしていくことは特に大事な意味を持つと考えています。日本で総合不動産デベロッパーが行う大規模再開発には長い時間がかかり、まちづくりを行うためには、そのまちで一定の資産を保有する必要があります。私は、資産を保有し建物の運営・管理を通じて、まちとかかわり続け、権利者様をはじめとするお客様のニーズを五感で感じ、それを汲み取ることが、そのまちの「場の価値」と「体験価値」を最大化させることにつながると考えています。当社ではTOFROM YAESUをはじめ様々なプロジェクトを手掛ける八重洲、日本橋、京橋の『YNKエリア』がその象徴であり、今後も地域の皆様や事業関係者の皆様とともに、この街の発展に力を尽くしていきたいと考えています。

主要ビジネスエリアで
トップレベルのオフィス賃料成長率を誇るYNKエリア
※2010年12月を1として指数化

※出所:三幸エステート「オフィスマーケットレポート」(2010年12月~2025年12月)より当社作成。
丸の内・大手町エリア、西新宿エリア、渋谷・道玄坂エリア比較

一方で、総合不動産デベロッパーとして長い時間をかけて再開発を行い、バランスシートで資産を保有し運営することは投資家の皆様が考える時間軸・資産効率と一見相反することがあると思います。だからこそ、ROEやEPSといった指標をもって資本市場と資本効率・利益成長に対するエンゲージメントを重視し、それを達成していくことが重要だと考えています。これらの指標を達成していくことを前提として、社会インフラとしてのまちづくりを行い、付加価値を高めることで、日本の国際競争力を向上させるというデベロッパーの存在意義を全うしていきます。

ROE向上とEPS成長を果たす資産ポートフォリオの構築を目指して

ROEの更なる向上・EPSの着実な成長を果たすためには資産ポートフォリオのマネジメントが不可欠であり、資産のリサイクルによる最適化や資産効率の追求、マネジメントフィーの拡大によって、バランスシートをコントロールしながら如何にして利益を伸ばしていけるか、という課題に集約されると考えています。当社では多様な事業を利益特性に応じて「賃貸」「分譲・売却」「サービス」3つの分野で管理しており、2026年度においては、現中計で成長ドライバーに位置づけている「分譲・売却」分野が好調で利益に占める割合も高くなっています。一方で、将来にわたって安定的に利益成長を実現していくためには「賃貸」「サービス」分野の拡大も不可欠です。

「賃貸」分野については、インフレ局面を意識した取り組みを実行していきます。オフィスビルをはじめとして賃料増額交渉に取組むことはもちろんですが、消費者物価指数等に連動した賃貸借契約への変換にも取り組んでいきます。また、効果的な資本的支出や設備投資を継続的に実施することにより、付加価値を高め収益の拡大に努めます。「みずほフィナンシャルグループ」様やラグジュアリーホテルの「アマン東京」様にご入居いただき、ビルの足下には「大手町の森」が広がる大手町タワーは代表的な例といえます。テナント様や来街者などお客様のニーズを汲み取りながら、修繕・設備投資を繰り返していくことで、持続的な付加価値の創出を実現し、竣工後10年経った今でも魅力を高めています。また、地政学リスクなど想定外のグローバル要因による経済変動等への備えを厚くし、中長期的な収益の安定性を確保するという観点からも、賃貸利益の充実は重要になると考えています。

「分譲・売却」分野は前中計期間からの利益成長ドライバーであるとともに、ROEの向上にも大きく貢献してきました。この利益分野で利益成長を実現するためには、いかに厳選された優良な物件を継続的に獲得できるかが重要なポイントとなりますが、当社が強みとする情報収集力や機動力を如何なく発揮し、優良な案件への投資を十分に積みあげることが出来ているものと自負しています。分譲マンション、ミッドサイズオフィス、物流施設、ホテル、商業施設などの開発用地や、バリューアッドを目的とした収益物件に加えて、米国をはじめとする先進国を中心とした海外事業用地等、日々積み上げている良質なストックは、今後も利益成長ドライバーとしての役割を果たし、力強い利益成長の実現につながるものと確信しています。

また、「賃貸」分野、「分譲・売却」分野を横断して、資産ポートフォリオ全体の洗い替えも必要だと考えています。収益の成長が短期的に見込めるのか、中長期にわたって成長を持続させられるのかを見定め、アセットタイプやエリアも加味した資産のリサイクルを通じて最適な資産ポートフォリオの構築に努めます。具体的には、当社が保有する固定資産や政策保有株式の保有意義の検証を継続的に実施し、最適な資本バッファーとしての水準も考慮したうえで、資産ポートフォリオの価値上昇、資本効率の向上、利益成長の継続、高水準な株主還元の実現につなげていきます。

最後に「サービス」分野については、向こう10年程度でスピード感をもって強化していきます。一定の資産を保有しながら、ROEの更なる向上とEPSの成長を実現するためには、ノンアセット(ライトアセット)ビジネスの伸長が極めて重要になります。例えば、「不動産マネジメント」におけるファンド事業では、前中計期間からAUM(運用資産残高)を積み上げフィー収入を拡大させてきましたが、一段とギアを引き上げ、AUMの増大にチャレンジしていきます。こうした取り組みは、最適なバランスシートのコントロールにもつながるものであり、次期経営計画における成長戦略の一つとして議論を進めているところです。

また、「サービス」事業をはじめとして、今後も更なる成長を遂げていくためには、インオーガニックな成長も視野に入れる必要があると認識しています。具体的にはM&Aを行うことがあげられますが、当社としては現在行っている本業に近い領域や関連性の強い領域で、成長が見込める分野をいかに見出してM&Aを実現していくかが、今後のポイントになるものと考えています。

「伴走型」まちづくりと「利他」思考の人材

(1)東京建物におけるまちづくりの哲学

当社は本年創立130周年を迎え、TOFROM YAESU TOWERに本社機能を移転します。130周年という記念すべき年に、まちの皆様とともに長い年月をかけて取り組んできた当社の旧本社を含むTOFROM YAESUで新たなスタートを切られることに、これまで当社の歴史を刻み支えてこられた先輩諸氏に深く感謝するとともに、大いなる喜びを感じています。私は、当社のまちづくりの最大の特徴を「まちが持つ個性や精神性、文化や歴史を尊重し、それらを活かしながら新しいものと融合を図っていく点」にあると考えています。まちの皆様、テナント様や入居者様、そしてこの地域に愛着を持つ多くの方々を主役と捉え、彼らと思いを共有しながら、「伴走者」として、まちづくりを行っています。伴走者として、まちやステークホルダーに寄り添い、事業を推進していくことは当然時間がかかりますし、当社が単独で権利を有する事業と比べて圧倒的に事業の難易度が高いものになります。一方で、その地域に溶け込んで、まちの皆様とともに進める再開発は、まちの価値を維持するだけではなく、まちを再生し、継続して付加価値を向上させることにつながり、私たち総合不動産デベロッパーの存在意義そのものではないかと考えています。『YNKエリア』においても、当社自身がTOFROM YAESU TOWERに本社を構えることで、このまちの未来に責任を持ち、まちづくりに対する哲学をさらに追求・具現化し、関係するステークホルダーの皆様と共創しながら、まちの価値を向上し続けるように努めていきます。

(2)まちづくりを支える「利他」思考の人材

ただし、この「伴走型」のまちづくりを進めるためには、当社の企業風土を深く理解し、共感してくれる人材で当社が組織化されていることが必要です。そのため、社員には常々、「利他の心」を持ち、行動することの大切さを伝えています。どうすればその地域に溶け込めるか、地域が持つ良さと自社の提供する価値をいかにマッチングさせるかという課題に対し、確かな答えの出せる地域伴走型のヒューマンタッチな人材。もともと一人よがりに陥らず、チームとしての成果に拘り、チームとしての成功や仲間の幸せを心から喜べる人材が当社グループには揃っていると思いますが、加えて、一人ひとりが持つ個性を活かし、ポテンシャルを最大限発揮することが重要だと考えています。当社創業者である安田善次郎の「陰徳を積む」という考え方にも通じるものがありますが、社員一人ひとりが持つ個性を活かし、ポテンシャルを最大限発揮することで事業を通じて社会課題の解決を図り、社会価値を創出することが、当社が関わるまちに独自性を付加し、競争優位性を創出することにつながります。人事部門には、「利他思考」と個性のバランスを常に考えながら、自律的に成長に向かえる人材を採用し、育成するプログラムを構築するよう指示をしています。

中長期的な成長を目指した経営インフラの高度化

当社が中長期的な成長を遂げていくためには、サステナビリティ(環境・社会・ガバナンス)・人的資本・DXといった「経営インフラの高度化」はかかせません。人的資本・DXの高度化については、現在策定している次期経営計画において議論を重ねていますが、ここでは私の考えや取り組みについて、説明したいと思います。

まず人的資本は今後の当社の浮沈を決める最も重要な要素だと認識しています。当社グループには大規模再開発をはじめとして、高い専門性を必要とする分野が多数存在し、さらに昨今の顧客ニーズの多様化やデジタル技術の進歩を背景に個々の業務は高度化しています。かつて当社は、いわゆるゼネラリストを育成することに軸足を置いていましたが、現在は自身の専門性に磨きをかけ、各現場の「戦闘力」を高めるスペシャリストを育てていくことも重視しています。例えば、用地の取得では、長い経験を持つことで実績と信頼関係の蓄積により情報ルートがより強固になり、建て替えや再開発の分野では複雑な権利関係の調整ノウハウを身につけるなど、結果として投資の成功や良質な案件の獲得につながっています。また、環境変化のスピードが加速しているなかで事業ポートフォリオの変革を進めるためには、多様な人材を確保・育成し、対応力や柔軟性を高めることも必要だと考えています。年齢・性別だけでなく、専門性の高さや広さ、発想力など個人の特性を含めて人材のバランスをとることを重視していきます。

次にDXの高度化についてですが、当社では、DXを先進技術の導入そのものを目的とするだけではなく、リアルの場の価値を持続的に高めるための基盤と位置付けています。例えば、ビル設備のネットワーク化やAI活用により、設備の異常を早期に把握し、適切な保全を行うことで、安全性と資産価値の維持・向上を図っています。一方で、AIの活用を含めた高度化に伴い、サイバーセキュリティへの対応は経営上の重要課題になっていると認識しています。また、AIやロボティクスの進展により、社会における人の役割は大きく変化しつつあります。効率化や代替が進む一方で、創造性など人と人がコミュニケーションを取ることで生まれる価値は重要性を増していますので、人が集い、対話し、価値を創出できる「場」を提供することに一層注力していきます。

ステークホルダーの皆様へ向けたメッセージ

私は、ROEの更なる向上とEPSの成長を実現し、投資家の皆様と当社グループ双方がWin-Winの関係となるために何をすべきかを常に考えています。同時に、総合不動産デベロッパーとして、まちに住む人・訪れる人など地域に関わる皆様に「伴走者」として幸せを提供し続け、すべてのステークホルダーがワクワクするような社会の実現に貢献したいと考えています。当社としての存在意義を存分に発揮しつつ、力強い企業としての成長、企業価値の向上を実現し、投資家の皆様の期待に応えていきます。

総合不動産デベロッパーとしての存在意義の発揮と企業価値の向上を高い次元で両立させるためには、全てのステークホルダーの皆様と真摯に向き合い続けることが重要だと認識しています。株主の皆様とは対話を繰り返し、いただいたご意見を経営計画に反映することで、当社の資本効率向上および持続的な成長につなげ、期待に応えていきます。また、お客様とは建物の運営や清掃といった日々の接点を大事にし、変化していくニーズを汲み取り、アップデートを繰り返すことで、斬新さや新しさを提供し続けます。さらに、当社社員に対しては、私はリーダーという立場にありますが、私自身もまた、すべての社員が輝き、持てる力のすべてを発揮するための「伴走者」でありたいと思っています。

今後も、当社グループ一丸となって、企業価値の向上に邁進してまいりますので、引き続きご期待をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

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