社長メッセージ Message to Shareholders

現中期経営計画期間の
安定的な成長を経て、
「次世代デベロッパーへ」の
実現を目指す

代表取締役 社長執行役員

野村 均

中期経営計画達成にかける想い

当社は2011年に大きな赤字を計上し、2014年は中期経営計画(以下、中計)の目標で掲げた連結営業利益が未達となりました。私はこのような背景から、2017年の社長就任以来「宣言した目標を着実に達成し、安定的に成長していく会社でありたい」と思い続けています。その想いを実現するために企業の在り方にかかわる三つの取り組みに注力してきました。

一つ目が会社として「稼ぐ力をつけること」です。私は営業分野でキャリアを積んできたため、目標達成には強いこだわりがあり、サステナビリティ経営の推進や社会課題の解決と同じくらい「稼ぐ力」が重要であると考えています。

稼ぐ力を定着させるために『全員営業』という言葉を使い、どのような部門にいても、どのような仕事をしていても、アンテナを高く張り、様々な情報に対して、どこかで役立つのではないか、数字につなげられないかという意識を常に持つように社内に徹底していきました。現中計の業績を振り返ると、この稼ぐ力についての意識が定着してきたと感じています。

二つ目が「採用の強化と経営戦略に合わせた適切な人員配置を行うこと」です。長期ビジョン・中計における目標達成のためには人材の確保が必須であると考え、2020年には10数年ぶりに中途採用を再開し、新卒採用の人数も増やしました。現中計期間においては再開発プロジェクトや投資家向け物件売却事業を中心に仕事のボリュームは格段に増えていますが、経験や専門性を備えた優秀な人材を適切に配置することで、着実に事業を推進することができています。

三つ目が「フラットな組織であり続けること」です。当社はチームプレーで数字をつくり上げていく会社です。これは役職員がフラットにコミュニケーションを取れる組織風土によって生み出される、当社なりの良さであると考えています。この組織風土の醸成なくして持続的な成長はありえないという考えのもと、私自身7 ~ 8名の社員を定期的に招き、気兼ねのないコミュニケーションの場を積極的につくってきました。またコロナ禍で中断していた全社交流パーティなどのコミュニケーション活性化企画についても再開しました。このように、人材の拡充と組織風土の維持・醸成を行うことで、成長の基盤をつくり上げています。

外部環境変化へ柔軟に対応し、中計目標達成に向けた強い手応え

2024年は現中計最終年度となりますので、改めて中計期間を振り返りたいと思います。

当社は2020年に現中計を策定しましたが、直後に新型コロナウイルスの感染拡大があり、在宅勤務などの企業による働き方の見直しや、緊急事態宣言に伴う人流の激減など、大きな環境変化がありました。

外部環境変化により当社の主力事業であるオフィス賃貸は当初計画よりも苦戦しましたが、日本において大半の企業は出社に軸足を置いた働き方に戻るという考えのもと、「場」の付加価値をさらに高められるよう、様々な取り組みを進めてきました。また、全体の業績については、分譲マンション事業・投資家向け物件売却事業が好調に推移したことによって、目標を着実に達成してきました。低金利をはじめとしてマーケットが良好であったという背景もありますが、前中計期間から良質な不動産のストックを積み上げてきたことや、当社の高い商品企画力などが主たる原動力であると私は捉えています。

さらに連結子会社の株式譲渡による事業ポートフォリオの最適化も合わせて行いました。また固定資産を売却するなど、業績の確保と事業ポートフォリオ・資産構成の最適化の両面に取り組むことができたと考えています。

結果として2023年は増収増益を実現し、2024年の目標に対しても、今まで築き上げてきた実績、組織・人材の基盤から、達成に強い自信を持っています。

現中計期間における連結子会社の株式譲渡実績

2020年:東京建物シニアライフサポート株式会社

2023年:東京建物キッズ株式会社、東京建物スタッフィング株式会社

中長期的な成長を目指して、ESGの取り組みを加速

当社は今年で創立128周年を迎え、総合不動産デベロッパーのなかでは最も歴史のある会社です。私は、128年存続してきたこと自体、当社がサステナブルであることの証左であると考えています。今後も、様々な環境変化を乗り越え、ステークホルダーの皆様が求める実績を残すとともに、その時々の社会課題に取り組み、"三方よし"を実現し続けていきたいと思います。

デベロッパーの事業は環境や社会への影響が大きいため、中長期的な成長のために現中計期間においてもESGへの取り組みを積極的に進めてまいりました。

ガバナンス面では、取締役会において中長期的な課題に対する議論を活性化させるべく、あるテーマに沿って自由に議論をすることができる「経営討議会」を昨年から新設しました。当社の取締役会は元々フラットな議論ができる雰囲気はありましたが、中長期的な課題への議論をし尽くせていないところがあり、次期中計の策定を見据えた枠組みとして設けました。昨年は「資本コストや株価を意識した経営」などを経営討議会の議題とし、社外取締役からも貴重な意見をいただき、議論を加速させています。

人材戦略については2023年度の有価証券報告書において、改めて当社の人的資本に関する考え方を開示しています。また、先に挙げた経営討議会においても人材戦略を議題として、現中計期間の取り組み・現時点の課題を整理し、今後当社がさらに成長していくために経営戦略と人材戦略をどう結び付けていくのかについて議論を深めています。環境戦略については昨年10月にGHG排出削減の中長期目標の引き上げを行うなど、野心的な目標設定のもとで取り組みを進めています。また、当社はSDGsが提唱される前から環境への配慮を意識した開発を行ってきましたが、その代表例が大手町タワーの敷地内にある「大手町の森」です。昨年、今までの取り組みが評価され、環境省により「自然共生サイト」に認定されました。

次期中計期間においてもESGへの取り組みを加速させていき、社会から必要とされる会社であり続けたいと思います。

ポートフォリオの適切なコントロールにより安定的な成長を目指す

当社は2030年頃を見据えて長期ビジョン「次世代デベロッパーへ」を掲げています。2024年度は折り返しにあたる年でもありますので、次期中計期間に関する議論を加速させています。外部環境の激的な変化・当社の現状を踏まえ、次期中計の公表については来春をめどに鋭意準備を進めていますが、今後の当社の展望を少しでもお伝えできればと思い、現時点における課題感や今後の展望に関して、私の意見を述べさせていただきます。

目下一番の課題は建築費の高騰だと認識しており、収益性の低下・資金需要の拡大など、当社ビジネス全体に大きな影響を与えることが予想されます。こちらについては、取締役会においてリスクマネジメントの観点から、収益性の改善・資金需要への対応、今後着工を予定しているプロジェクトのスケジュール管理などについて、複数のシナリオを検証し、多角的な議論を行っています。

また現中計で掲げた「賃貸」「分譲・売却」「サービス」の三分野の利益構成については、外部環境変化を踏まえ、策定当初に計画していた構成から異なるものになると考えています。

まず「賃貸」分野のオフィスビルについてはエネルギーコストの上昇やコロナ禍による空室率の上昇を受け、当初の想定よりも収益が下回っています。一方で当社では2025年度には八重洲プロジェクトの竣工を予定しており、それ以降も複数の大規模再開発を通じて、着実に賃貸利益を積み上げていく計画としています。また、空室率は2023年末以降、低下傾向にあり、物価や賃金などの上昇による好循環がさらに進めば、オフィスビル賃料のみが上昇しないということはないと思います。私は人と人が膝を突き合わせ、深い議論を行う場は間違いなく必要だと考えており、今後のオフィスビルの供給など、マーケットの動向に注視しつつ、既存オフィスビルの賃料収入拡大にも努めていきたいと思います。

また、当社は現中計期間に従来主力であったオフィスビル以外に物流施設やホテルなどの多様なストックを積み上げ、バランスの良い資産ポートフォリオを築けてきたと自負しています。今まではオフィスビルを中心に保有し、賃貸収入を得てきましたが、例えば賃料が上昇傾向にある賃貸マンションの保有割合を増やすなど、賃貸利益を拡大すべく努めています。

「分譲・売却」分野における投資家向け物件売却事業については、現在抱えているストックの売却をさらに加速させていきます。あわせて最適な資産ポートフォリオ構成を検討していき、必要に応じて固定資産の一部売却を行うなど、時々のニーズに合わせて適切に売却が行える体制を整え、収益の最大化を目指します。

分譲マンションについては現中計期間で最も好調であった事業であると認識しています。現中計期間においては「SHIROKANE The SKY」「Brillia Tower 堂島」などは、立地はもちろんのこと、商品性についてもお客様から高く評価していただきました。分譲マンション事業は一般的にボラティリティが高い事業だといわれていますが、当社はBrilliaブランドに基づく高い商品企画力を有するとともに、厳選した用地取得による優良なランドバンクを保持しており、次期中計期間においても業績の下支えとなる事業であると考えています。日銀の政策変更などの懸念材料はありますが、積み上げてきた実績をもとに、継続的に収益を上げていきたいと思います。

最後に「サービス」分野については、次期中計において更なる拡大を図る必要があると考えています。現在の当社の利益は主に「賃貸」分野、「分譲・売却」分野によって生み出されていますが、資本効率の観点からサービス分野の中心として仲介事業・駐車場事業・ファンド事業などを強化していく予定です。

現中計策定時と比較し、想定と異なる部分もありますが、ポートフォリオを適切にコントロールし次期中計期間も安定的な成長を目指します。

"内発的"な行動により「次世代デベロッパーへ」を実現する

私は「内発的」つまり「自らやろうとすること」にこそ価値があると考えています。これには私が初めて配属された不動産仲介での経験が大きく影響しています。自ら動かなければ仕事がないという状況で、不動産の売りたい・買いたい・借りたい・貸したいという情報を外に出て、探しに行くことから仕事がスタートしました。そういったなかで声をかけていただいたときには、有難さを感じ、感謝をする、そのような姿勢が身に付くようになりました。

この経験から、自ら動くからこそ人とのつながりや情報を得ることができ、新しい価値を生むことができることを学びました。内発的な行動が長期ビジョン「次世代デベロッパーへ」を実現するために必要なことだと考えています。

今までの事業の延長線ではなく、新しい価値を創出していくためには、当社の強みであるお客様からの信頼を勝ち取る「人間力」に加えて、役職員が「自ら動くこと」が重要です。

2030年に向けては、八重洲プロジェクトをはじめとした複数の再開発プロジェクトが竣工する予定であり、「サービス」分野の拡大・海外事業の投資などにも改めて挑戦していかなければなりません。そのなかで私自身も内発的な行動を取り、役職員一丸となって長期ビジョンの達成を目指していきます。

「次世代デベロッパーへ」に込められた想い

次世代
変化の著しいこの時代、「社会課題の解決」と「企業としての成長」をこれまでとは違ったレベルで両立させることのできない企業は、今後末永く存続することはできない。
デベロッパー
単にビルや住宅というハードを造って収益を積み上げるだけでなく、人が「住む」「働く」「憩う」場をサービスも含めて創造し、長期的な視点からまちの文化や機能を発展させていく。不動産開発にかかわる社員だけでなく、販売や管理などにかかわる社員も含めたすべてのグループ社員が、まちや社会を"Develop"する意識を持って携わっていく。

中長期的な成長がすべてのステークホルダーにとっての「いい会社」の実現につながる

私は中長期的に当社が成長し、企業価値を高めていくことが、長期ビジョンで掲げているすべてのステークホルダーにとっての「いい会社」であることにつながると考えています。また、今までの当社の業績を踏まえ、一つ一つの目標を着実に達成していくことで、将来にわたっても約束を守る会社であることを、ステークホルダーの皆様に実感していただきたいと常に思っています。

昨年はコロナ後初めて欧州・北米を訪問し、海外の投資家の方々と直接意見交換を行いました。国内外問わず投資家の皆様からのご意見は、当社にとって大変貴重なご意見と認識しています。次期中計においてはいただいたご意見も踏まえつつ、「東京建物が将来にわたり安定的に成長していく会社である」とステークホルダーの皆様に実感いただける「目標・計画」を策定したいと思います。今後とも中長期的な目線で当社を評価いただき、当社グループへのご理解と一層のご支援を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

2024年7月
代表取締役 社長執行役員

野村 均
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