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都心に本物の森?

「大手町の森」で学ぶ 都市と自然の再生

What's Otemachi forest?

大手町の森って何のこと?

2023年8月に開業10年を迎え、「森(しん)・呼吸できるまちづくり」を運営コンセプトに掲げる大手町タワー(東京・千代田区)。その敷地面積の3分の1を占める約3,600m²に「日本一の都市の森」をめざす本物の森が息づいています。
その名も「大手町の森」。希少種を含む約300種もの植物が野鳥や昆虫たちを呼び、都心に新たな生態系を宿す豊かな自然環境です。周辺エリアで働く人々に憩いとやすらぎを提供し、都市公園コンクールで国土交通大臣賞(企画・独創部門)を受賞するなど、都市緑化のモデルとして高く評価されています。
新CMは緑あふれるこの森で撮影。鳥たちのさえずりが響く中、AIさんが散策しながら森づくりのキーワードを学びました。
ご案内役は、日々の管理に携わっている東京建物ビルマネジメント第一部の髙橋優希。「都市を再生しながら自然を再生する」という東京建物の想いを熱く語りました。

Natural forest needs

自然の森に必要なのは
「疎密」「異齢」「混交」

AIさん

都会の中に本当に森があるんですね。深呼吸したくなります。

髙橋
(優)

本物の森ってなんだと思いますか?私たちはこの森をつくるにあたって自然の森をたくさん調査しました。そこから、たくさんの植物が競争しながら共存していることがわかりました。そこで、整えられた公園ではなく、植物がそれぞれの生命力に応じて競争する森をめざしました。
樹木の幹を見てください。太かったり、細かったりバラバラですよね。植物が密集していたり、まばらだったりと、均一になっていないことも本物の森の特徴です。自然の森から学んだ3つの要素「疎密」「異齢」「混交」を取り入れました。

AIさん

いろいろな木が育ちあって、まるで子どもみたいですね。

髙橋
(優)

そう思います。10年間、たくさんの人に見守られて成長した森です。

Column

自然の森から学んだ3要素とは?

「本物の森」とはなにか。複数の自然の森を調査してわかったのは、野性味あふれる多様な姿でした。その中から3つの要素を森づくりに取り入れました。

【疎密(そみつ)

複雑な起伏の中で、木が密集したりまばらだったり、ランダムであること。

自然の森特有の光と影の美しいコントラストを実現する疎密。大手町の森でも、樹木のほとんどないエリアから100m²に8~10本の高密度まで、さまざまな密度で樹木を配置しました。具体的には「通路」と「森」を区分けして、通路の近くは樹木の密度を低く、森の奥は密度を高くしています。さらに起伏や斜面も設けて景観に変化をつけました。

【異齢(いれい)

さまざまな年齢の木があり、常に入れ替わっていること。

大きな木を植えるだけでは森になりません。大手町の森では、小さな苗木から、幹の細い木、太い木、低い木、高い木、さらには競争に負けてしまったような、ひょろひょろした「負け木」なども加えています。異なる年齢の樹木を混在させることで、生命力あふれる自然の森が再現できたのです。遺伝子の攪乱(かくらん)を防ぐため、高木は全て関東圏から調達しています。

【混交(こんこう)

常緑樹・落葉樹・地被類など多様な種類が混ざっていること。

森にもライフサイクルがあります。裸地から始まって、草原、雑木林、極相林へと長い時間をかけて植生が変化することを「遷移」と呼びます。大手町の森は落葉樹と常緑樹、地被類(地面を覆って成長する植物)が混ざりあう50年程度の若い森をめざしました。大手町周辺の気候風土に応じた高木を約200本選択し、郷土性にも配慮しています。

Preforest

森を植生ごと調べて移植した
「プレフォレスト」

AIさん

この森はどこから来たんですか?

髙橋
(優)

プレフォレストという手法で、千葉県君津市から移植しました。大手町の森と同じ条件でモックアップの森を育て、3年間、土壌や植物、適切な管理方法などを検証してから、ここへ持ってきたんです。

AIさん

本物の森を持ってきたんですね!

髙橋
(優)

大手町の森の木々が伸びやかなのは、園芸用の木ではなく、自然の中で育ったからなんです。移植した当初はまだ緑が少なくて、茶色い土壌が見えていました。10年かけて、ここまで成長させることができました。

Column

モックアップの森で検証しました

モックアップとは実物大モデルのこと。別の場所に検証用の森をつくったのです。
まず千葉県君津市の山林に大手町の森の1/3、約1,300m²のスペースを確保しました。そこに、土の起伏や人工地盤、土壌の成分、樹木の密度や種類などを大手町と同じようにして植物を植えました。それから約3年かけて季節ごとの植物の生育状況や適切な管理方法などを検証。改良を加えた土壌や植物を大手町にそのまま移植しました。

植物のレイヤーを再現

こだわったのは樹木だけではありません。森の地表面には、緑で覆う基本種(ヘビイチゴやテイカカズラなど)、花を咲かせる群生種(シャガ、ユキノシタなど)、景観にアクセントをつける点景種(ツワブキ、ヤブソテツなど)を重ね合わせることで自然の森を再現しました。

安定して育つ種を選定

基本種27、群生種59、点景種21と、地表面を覆う植物だけで約100種を選定しています。いずれも、繊細な山野草と共生しながら、都市の中でも安定した生育が可能な種です。

絶滅危惧種も開花

約100種の中には東京都のレッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種も。春に開花するニリンソウ、カタクリ、夏に咲くキツネノカミソリなど、大手町の森には希少な山野草が生育しています。

植物類 森の経時変化

Role of real forests

ヒートアイランド現象や
ゲリラ豪雨対策にも貢献

AIさん

そもそもなぜ本物の森をつくろうとしたんですか?

髙橋
(優)

都市を再生しながら自然も一緒に再生したいと考えました。都市の中に緑があると木陰ができて少し涼しかったりしませんか。ヒートアイランド現象を緩和する効果だったり、都心ならではの課題に貢献できるような森をめざしました。それに、ここは渡り鳥の中継拠点にもなっているんですよ。森をつくったことで動物にとっても心地よい空間ができたと思います。

AIさん

私たち人間にとってもそうですね。気持ちがいいし、心も癒されます。

Column

森が空気と水の流れを変えます

都市の気温が周囲よりも高くなるヒートアイランド現象。東京では過去100年間に約3℃気温が上昇したともいわれ、熱中症などの健康被害やゲリラ豪雨の原因にもなっています。大手町の森の約3,600m²というまとまった緑は気温の低いクールスポットをつくりだし、ヒートアイランド現象の緩和に貢献します。
また、豊かな土壌が地域の保水機能を高め、豪雨などが引き起こす水害も抑制できると考えられています。

森の効果で気温が低下

樹木の蒸散作用(葉から水分が放出される現象)や、土壌の保水作用が気温の上昇を抑えます。シミュレーションでは大手町の森の敷地内で気温が平均1.7℃、敷地周辺で平均0.3℃低下しました。

雨水を循環利用

屋根や人工地盤に降った雨を雨水貯留槽へ集め、植物への水やりに利用しています。森の土は雨水をいったん受けとめて、敷地外への流出や雨水貯留槽への急激な流入を防ぎます。

地下空間も自然の光で明るく

大手町タワーの地下2階は3フロア分に相当する巨大な吹き抜けになっており、大手町の森のまぶしい緑が眼前に広がります。自然光があふれ、地下にいながら森を感じられる大空間を実現できました。

ヒートアイランド現象の緩和

平均気温が敷地内で1.7℃、敷地周辺でも0.3℃以下

AI Challenges monitoring

AIさん、生物モニタリングを体験!

大手町の森では208種類の植物、129種の昆虫、13種類の鳥類が確認されています。生物の記録は大切な管理業務のひとつ。この日、AIさんは森を管理する東京グリーンサービスの福本和弘さんのガイドで特別に森の中へ。

福本
さん

どうぞこちらへ。オレンジの花を咲かせているのはオオキツネノカミソリです。ヒガンバナの仲間で東京都の絶滅危惧種に指定されています。
足元の草はクサイチゴといいます。春には食べられる実がなるんですよ。ほかにもミツバアケビなど、食用できる植物が意外と多いんです。

AIさん

宝の山じゃないですか!動物はいるんですか?

福本
さん

水場があるのでここ2~3年でトンボが増えました。あの葉に乗っている青虫はアオスジアゲハの幼虫です。鳥も多いですね。ハヤブサの飛来も見られました。皇居が近いせいかタヌキも散歩にやってきますよ。

AIさん

ここにタヌキが!空気がいいから動物たちも喜んでますね。でも管理するのは大変でしょう。

福本
さん

定期的に下草刈りや樹木の剪定をしています。切った枝は園路の階段の土留にしたり、落ち葉を入れるバイオネスト(堆肥置き場)にしています。そこがまた生きものたちのすみかになるんですよ。困ったことに最近はカシノナガキクイムシによる伝染病によってナラ枯れの被害が出始めています。コナラやクヌギ・カシ類などの樹木が枯れてしまうので、トラップを設置して予防しています。ちょっと見た目は悪いですけど。

AIさん

ナラ枯れ……知らなかった。勉強になります。

福本
さん

あそこで小さな赤い花が並んでいるのは、ミズヒキです。祝儀袋などに使う水引に見立てて命名されました。季節ごとに開花する植物が異なるので、ぜひ違う季節にもいらしてください。

クサイチゴ

オオキツネノカミソリ

ミツバアケビ

ミズヒキ

タチツボスミレ

タラノキ

ツワブキ

アズマネザサ

アオスジアゲハの幼虫

カミノナガキクイムシ

トラップ

Future of the forest

都市と自然が共創しあえる
関係へ

髙橋
(美)

こんにちは、東京建物ビルマネジメント第一部の髙橋美結です。森に入ってみて、いかがでしたか?

AIさん

いい空気をたくさん吸えました。ここにタヌキが来るなんてびっくり。ほかにはどんな生きものがいますか?

髙橋
(美)

タカも遊びにきます。小動物などを虎視眈々と狙っていて、急降下してくることもあるんですよ。

髙橋
(優)

この森はあまりカラスの鳴き声が聞こえないですよね。生態系のピラミッドが成り立っていて、その頂点に立つ猛禽類を恐れて近寄ってこないようです。

AIさん

まさにネイチャーですね。今後はこの森をどのようにしていこうとお考えですか。

髙橋
(美)

ともにつくると書いて共創といいますが、これからは森と人がともに共創しあえる関係性をつくっていきたいと考えています。

髙橋
(優)

都市の中にある自然だからこそ、自然と人の距離が近づいていけるような環境をこれからもつくり、イベントなどを通して、まちと人と森が交われるような場の提供もしていきます。

AIさん

東京建物さんは建物だけじゃないんですね。まさにまちづくり!

髙橋
(美)

ありがとうございます。最後に、今日の感想をお聞かせください。

AIさん

すごく楽しかったです。都会でこんなに自然との距離が近いなんて、新鮮な驚きでした。いろいろな生きものが息づいていて、たくさんの発見があって。わざわざ遠くの山に行かなくても本物の森と触れ合えるってうれしいですよね。このすばらしい場所で、いつかライブもやってみたいです。

大手町の森

オフィス・ホテル・商業施設・地下鉄駅が結節する大手町タワー(東京都千代田区)のパブリックスペース。敷地全体の約1/3に相当する約3,600m²もの自然の森です。都市と自然の再生をめざす取り組みと効果が評価され、環境に関するさまざまな表彰・認証を受けています。大規模な吹き抜けによって外光が降り注ぐ地下2階~1階も見どころのひとつ。

東京都千代田区大手町1-5-5

大手町の森

People

大手町の森で出会った人々

東京建物 ビルマネジメント
第一部

髙橋 優希

大手町タワーの運営管理に従事。主にオフィス・ホテルを担当し、大手町の森の生きものについて勉強しながら、森の広報活動に取り組んでいる。

東京建物 ビルマネジメント
第一部

髙橋 美結

大手町タワーの運営管理に従事。主に商業施設「OOTEMORI(オーテモリ)」を担当し、施設の魅力向上や大手町の森の広報活動に取り組んでいる。

東京グリーンサービス

福本 和弘さん

樹木医としてプレフォレストから携わり、大手町の森ができてからの10年間、森を見守りながら、森の管理に取り組んでいる。

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