
貢献するSDGs目標
サステナブルなまちづくり。
最近は都市開発や不動産、建設の分野でこんなキーワードを目にする機会が増えている。
では、持続可能なまちの具体的な姿はどんなものだろう。建物を建てたり、壊したりする営みの中でサステナビリティをどうやって実現するのか。まちの中で育て、維持していくものは何だろうか。
そんな疑問をテーマに、日本で最も歴史ある総合不動産デベロッパー、東京建物の小澤克人社長と、同社のCMでもお馴染みのアーティストのAIさんとが対談した。
まちづくりに込めた想いを紐解いていくと、サステナビリティの本当の意味が見えてきた。
人の“想い”でまちは変わる
━━AIさんは、東京建物のサステナブルなまちづくりに関する取り組みを伝えるため、サステナビリティパートナーとして3年間さまざまな活動にチャレンジしてきました。東京建物らしさが詰まったプロジェクトの一つが都立明治公園です。
2024年に、緑の中でスポーツを楽しむイベントで、子どもたちと本気で「くつしたまいれ」をやりました(笑)。広々として、大人も子どもも誰でものびのびできる公園ですよね。
プライベートでも行きましたよ。スパ施設も、カフェも、もう最高。大満足でした。


都立明治公園は、都立公園として初めてPark-PFI(公募設置管理制度)を活用した事業です。
📌Park-PFI:都市公園の魅力と利便性の向上を目的に、2017年の都市公園法改正により設けられた制度。カフェや店舗など公園利用者の利便に資する施設を設置し、その収益を活用して公園施設の整備・改修等を行う事業者を公募により選定する。
「社会課題の解決」というと難しく感じますが、人が集まり、イベントも増え、さまざまな企業ともコラボレーションできる場所へと再生できたことは、手前味噌ながらいい取り組みだと思います。


━━高層ビルの目の前に緑が広がる「大手町の森」はどうでしたか。
開業10周年記念の「呼吸」をテーマにしたイベントに参加しました。都会のど真ん中にある森で深呼吸をして身体が整っていく感覚は、贅沢でしたね。
大手町の森は、都会とは思えないくらい緑と生き物がいっぱいで、季節が巡ると渡り鳥たちが戻ってくるのも嬉しい。私、自然が大好きなので、あの森にいるとリラックスできて、気持ちもやわらかくなります。
大手町の森を作るにあたっては、千葉県君津市に森の一部を実際に作り、3年くらいかけて土壌や植物、適切な管理方法などを検証しました。それをそのまま大手町に移植したんです。
本物の雑木林なので、時間の経過と共に植生が変化し、そこに住む生き物も入れ替わっています。あの森にはハヤブサ・タカ等の猛禽類やタヌキもいるんですよ。
大手町の森は開業当時にも話題になりましたが、コロナ禍を経て、豊かさの物差しが変わった今、さらに評価が高まっています。


━━「Hareza池袋」ではステージイベントをしましたね。
豊島区長の高際みゆきさんがとにかくパワフルで、こんなに元気な人がいるから、まちも元気になるんだと思いました。
ステージで歌ったときも、通りすがりの方が一緒に歌ってくれたり、手を振ってくれたり。ホーム感満載で、安心して楽しめました。
私、Hareza池袋に触れてから池袋が大好きになって、プライベートで10回くらい行ってます(笑)。昔はもうちょっと怖いイメージのまちでしたが、だいぶ印象が変わりましたよね。
Hareza池袋は2020年に全体開業しましたが、以前と比べるとこのエリアはだいぶ変わりましたよね。昔は「えきぶくろ」などと言われていましたが、賑わいあふれるウォーカブルなまちになったと感じます。
豊島区では行政と民間企業のパートナーシップが多く見られます。皆さんそれぞれがまちを良くしようと取り組まれています。やっぱり、人の思いとつながりで、まちは変わるんですよね。

━━2025年5月には、障害がある作家の才能を世界に広げるヘラルボニーとのコラボレーションもありました。

どの作品も本当に素敵で、魅力的でした。
障害があるとかないとかは関係なく、純粋に良いものや得意なことが称えられているのが素晴らしかった。本人はもちろん、ご家族にとっても自信になるし、新しい未来があるんだって思える。
本当にこの取り組みは、日本だけじゃなく、どんどん世界に広がってほしいですね。
へラルボニーの松田代表が「マイナスをゼロに近づけるのではなく、存在しているプラスをどう見るか」と話されていたのが印象的でした。その人の素晴らしいものに光を当てて、プラスアルファしていく。
まさにDE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)ですよね。当社もヘラルボニーの理念に共鳴して、一緒にさまざまな取り組みをしています。

八重洲・日本橋・京橋で130年
━━こうしたサステナビリティの取り組みの背景には、どんな想いがあるのでしょうか。東京建物は1896(明治29)年に安田財閥の創始者、安田善次郎氏が創業しました。当時の新聞広告で「市民一人ひとりの暮らしの向上と東京全体の発展」を掲げていたそうですね。

当時は不動産取引の基盤が未整備で、詐欺など不正な取引も横行していたそうです。善次郎翁は、そうした状況を変え、みんなが安心して自分らしく暮らせる社会づくりを通じて、東京全体をよくしていこうと考えたのでしょう。

今も、その思いは変わりません。都市開発、ビル、住宅、商業施設、ホテル━━事業領域は広がりましたが、場を通じて豊かな社会をつくるという根本は同じです。
中でも注力しているのが、創業以来本社を置き続けてきた「YNK(インク)」と呼ばれる、八重洲・日本橋・京橋エリアです。


YNKは、東京建物にとって特別なエリアですよね。
そうなんです。東京駅の八重洲側は、江戸時代は商人や職人が暮らす地域でした。世界的にも稀な人口密集エリアだったそうで、区画が細かく分かれ、狭い路地が張り巡らされていたんです。
今は区画も通りもだいぶ広くなりましたが、やはり東京駅の反対の丸の内側と比べると、だいぶ印象が違いますよね。丸の内側は、江戸時代には武家屋敷が広がっていたので、区画も大きく、通りも広いんです。
YNKには今も、昔ながらの下町の風情が残っています。200年以上続く飲食店が2軒、100年以上続くお店は10軒あるんですよ。我々も、ここに約130年間、本社を置いてきました。



老舗の和菓子屋さんや、カフェ、アートギャラリーもあって、新しいお店と懐かしい感じのお店とが混ざった楽しいまちですよね。
このまちを歩いて印象的だったのは、東京建物の社員さんがお店の人とマブダチみたいに話してたこと。最初から仲が良かったわけじゃなく、交流する中でだんだん仲間になっていったと話していました。素敵な関係ですよね。
社員さんは、まるで自分のことのように、まちやお店のことを説明してくれたんです。このまちに長くいて、まちのことをよく知って、まちの人と共に歩んできたんだってわかりました。
地域で大きなお祭りが開催されるときは、YNKのまちがものすごく盛り上がるって聞きました。東京建物の社員さんもお神輿を担ぐとか。

江戸三大祭りの一つである山王祭ですね。社員はもちろん、私も神輿を担ぎます。
最近は、外国人の方にも神輿を担いでもらったりします。いろんな人を迎え入れて、みんなで盛り上がる。そういうオープンマインドな文化が根付いている地域なんですよね。
━━YNKエリアでは、東京駅の目の前で、大型複合施設「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」の開発が進行中です。東京建物にとってどんなプロジェクトですか。
われわれにとっても、地域の皆さんにとっても、集大成のようなプロジェクトです。
再開発事業は関係権利者の皆さんとともに進めるのですが、TOFROM YAESUの場合、その数は250ほどにものぼりました。
まちのあり方や再開発に対しては、皆さんいろいろな想いを抱いています。簡単に話はまとまりません。2000年に再開発のための懇談会を設置して、何度も何度も、地域の皆さんと話し合いを重ねてきました。
議論が進むポイントの一つになったのは防災です。八重洲のまちは、区画が細分化されていて道が狭く、火災や地震が起きたとき大災害に発展しかねません。
このまちをもっと良くしたい、次の世代につなげたいという地元の方々の強い想いがあって、再開発が実現しました。
私が入社した1980年代の時点ですでに、先輩が「いつの日かここが再開発されたらいいよね」と言っていましたから、本当に感慨深いです。
━━2026年に完成するTOFROM YAESUは、どんな場所になるのでしょうか。

オフィスのテーマは「ウェルビーイング」です。東京駅直結という立地を活かしながら、身体的にも、精神的にも、社会的にも満たされた状態となるよう、さまざまなつながりが生まれ、幸せが続いていく場を目指しています。
特に力を入れているのが「食」です。例えば、キリンホールディングスさんと協業して、免疫機能を高めるメニューなど、栄養バランスの取れた食事を提供する共用食堂などを設置する予定です。
YNKには、かつて魚河岸や大根河岸などの市場が置かれ、江戸時代には鮨、蕎麦、鰻といったファストフードの食文化も生まれました。豊かな食文化は現代まで綿々とつながっています。それらを生かしながら、環境にも配慮した食材を使って食をアップデートしていきます。
つくる人、食べる人、そして生産者とのつながりも意識して、食を通じた循環をつくりたいと考えています。

それ、めちゃくちゃいいですね。私、YNKを歩いたとき、トロ握り発祥のお寿司屋さんで食べさせてもらったんですけど、本当においしくて。このまちって、江戸時代から「食」で人を幸せにしてきた場所なんだなって実感したんです。
だから、TOFROM YAESUで「健康になれる食」を提供するっていうのは、そのDNAを受け継いでいる感じがします。食事が最高だと、テンションも上がるし、元気にもなる。そして環境にも配慮するっていうのも大事ですよね。
サステナビリティのその先へ
━━東京建物が取り組むキーワードとして「リジェネレーション」がありますね。この考え方について教えてください。
「リジェネレーション」は、再生していく、より良くしていくという考えです。サステナビリティがマイナスをゼロにして持続していく概念なら、リジェネレーションはそこから更にもう一歩、良くしていく。
新しい概念のようにも聞こえますが、当社はこれまでもリジェネラティブなプロジェクトに取り組んできました。大手町の森(大手町タワー)も、単に建物を建て替えるだけじゃなく、本物の緑をしつらえることで、働く人はもちろん、さらに植物や生き物にも、もっと良い場所をつくろうとして実現したものです。
経済発展ばかりに目を向けるんじゃなくて、自然と共生したり、みんなが笑顔になれるように。多元的な価値を創出し、ポジティブな循環を生み出し続けていくことが大切です。
素敵な考えですね! プラスを循環させていくなんて最高です。
少し違う観点ですが、AIさんも訪れた石神井公園団地の建替プロジェクトもリジェネラティブな取り組みと言えます。1967年竣工の東京23区内最大級の団地で、老朽化と住民の高齢化が課題でした。
地元の方々、建替組合の皆さまとともに10年以上かけて再生事業を進め、2023年9月に「Brillia City 石神井公園 ATLAS」として生まれ変わりました。
一番大切にしたのは、コミュニティの継承・再生です。旧団地490世帯のうち301世帯が建替え後のマンションに戻り、新住民と一緒にサークル活動をするなど、新たに温かなコミュニティが生まれています。


ああ、あそこ! 行きました。「ただいまが聞こえるマンション」っていうコンセプトでしたよね。
昔からの住民の方と、新しく入った若い家族が一緒にサークル活動したり、お祭りを企画したりしてるんですよね。理事長さんが「中庭で子どもたちの声が聞こえるのが本当にうれしい」って話してたのが印象的でした。
本当に、「建物だけじゃない」なんですね。
そうなんです。建物というハードの部分はもちろん大事ですが、それ以上にコミュニティのようなソフトの部分を大切に育てていける東京建物でありたいです。
当社のCMのために書き下ろしていただいた楽曲『BE WITH YOU』に、「まちも、人も、みんなが笑顔になる」という歌詞がありますが、まさにそういう思いですね。
あの曲、最初は東京建物さんのために書いたんですけど、だんだん自分と通じてきて、最近はライブで歌うと、感情的になって泣きそうになるくらい好きな曲になりました。曲もまちと一緒で、人の想いで変わっていくんだと実感しました。

━━最後に、2026年に130周年を迎える東京建物、そして今年25周年を迎えられたAIさん。お二人に共通する"長く続ける秘訣"を教えてください。
私たちは場を提供することを生業にしていますから、みんなが楽しく暮らせる、楽しく働ける、笑顔になれる場をつくっていく。実直にそれを繰り返していくことが、長く続く秘訣なのかなと思います。
いいことにつなげたいと続けていれば、自然と同じ想いの人が一緒になって、どんどんつながっていく。想いがあるから、続くんじゃないかな。
人も、まちも、文化も、自然も、全部つながって、みんなが笑顔になる。そういう未来を、これからも一緒につくっていけたらいいですね。
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- 撮影:小田 駿一
- デザイン:Seisakujo.inc
- 執筆・編集:花谷 美枝